「古い自民党をぶっ壊して政治経済の構造改革を行う」
こうした分かりやすく勇ましいフレーズを繰り返した小泉氏は、
不人気の森首相に代わって首相に就任し、圧倒的人気を誇った。
「もっとも困難なものから手を付ける」
就任直後、こう豪語した小泉氏は、道路公団の民営化をぶちあげた。
小泉氏の人気の理由は、誰もが「どうせできない」とあきらめていたことを、明快に「やる」と言ったからだ。そして大多数が「どうせできない」とあきらめていたことは、役人の無駄遣いと政治家の無責任を正すことである。
「私の政策を批判する者はすべて抵抗勢力」
勇ましい絶叫スピーチを伴って、メディアを最大に利用した小泉劇場の幕が開いた。
まず小泉氏は、道路公団民営化推進委員会を設置し、7人の委員を任命した。メディアは、これを「七人の侍」と持ち上げた。委員会の議事は、改革を待ち望む人々にニュースとして届けられた。
最初の数ヶ月ほどの間、報道される改革派と保守派のせめぎあいを、大衆は面白おかしく見ていた。しかしながら、民営化委員会の議題は、そもそも大衆に馴染みのない話題だ。国家予算や企業経営といった金勘定の方法論の議論を、どれほどの人がちゃんと理解できるのかも疑問だ。
やがて民営化委員会の報道は飽きられた。飽きられた中、委員会は18ヶ月間もの期間に渡って続けられた。委員会を注視する人がどんどん減少するなか、それがうまくいってないことくらいは、誰もが感じていた。
委員会は、何度も空中分解し、ようやくまとめられた意見書も政府は参考にせず、民営化の骨子を決めたしまった。小泉氏と猪瀬氏のふたりが成功をアピールするから真実が見えにくくなったに過ぎない。このふたりは、自身の存在価値が失われることを恐れ、民営化が成功したかのようなウソを繰り返したのである。
そして多くの人たちは、改革が成功したかのような報道をそのまま消化した。ドタバタが繰り広げられたことは分かっていながら、誰もが「小泉改革で日本が良くなる」と信じたかったのである。
道路族は小泉道路改革の結果を喜んだ
現在においても、民営化委員会の評価は容易なことではない。そこで、道路公団民営化の失敗であることを示す識者らの文章を引用した。
- 「権力の道化」PHP研究所 櫻井よしこ氏
- 私の脳裏に蘇ってくるのは政府・与党案決定の日に、道路族のドン、古賀誠氏が浮かべた満面の笑みである。耳に聞こえてくるのは彼らの高笑いである。しかし、道路族の高笑いと、してやったりの笑みとは対照的に,密やかなしのび笑いも聞こえてくるようだ。笑いを辛うじて腹中に押し戻す官僚たちの慇懃な表情さえも見えてくるような気がする。
- 「道路公団民営化の内幕」PHP新書 屋山太郎氏
- 政府与党合意が決まった夕刻、自民党の道路族のドン、古賀誠道路調査会会長は、テレビカメラに取り囲まれて満面の笑みをもらした。日ごろあまり笑わない男が、笑いをこらえ切れないという面持ちで「いやー、総理の(改革に向けた)御意欲はたまりませんなぁ」と言っていた。あれが改革の結果を象徴している。この基本スキームでやれば、もう際限なく、道路ができるということなのだ。夜のテレビ番組では、引退した江藤隆美氏が自宅の庭で、「道路はどこまで造るのか」と聞かれて、「1万1520キロだ・それは約束だ」と答えていた。彼らにはこのまま高速道路を造り続ければ、国が潰れるということがわからないのだろうか。あるいはそのころはもう自分は生きていないから、「知ったことではない」ということか。こういうのは、“道路賊”としかいいようがない。政治家とはかくも無責任な人種なのだ。
道路公団民営化に対する識者の意見
多くの識者は、政府が決定した民営化スキームにあきれている。
- 「権力の道化」PHP研究所 櫻井よしこ氏
- 意を通じて作家(猪瀬直樹氏)と首相を軸にして生まれ民営化案は、族議員の望み通りの案だった。その案によって私たち国民には何十兆円という想像を絶する負担が新たにかかってくる恐れがある。お金の負担に加えて、国民が熱狂的に支持して進めたはずの日本国の改革とはこの程度のものかという落胆には深刻なものがある。真の改革を願っていた人ほど、落胆の度合いは深い。日本人の心をかくも深く傷つけた偽りの改革案を改革であると胸を張る小泉首相と、その露払いをして出来レースを演じた猪瀬氏の罪は重いのだ。
- 「時代を読む」2004年3月14日東京新聞 佐々木穀氏(東大学長)
- 国が株式の三分の一を持ち、資金調達において政府保証をつけ、事実上、料金の全国プール制とでもいうべきものを温存させるかのような仕組み。その下で新会社が国の高速道路建設計画に対しブレーキをかけることができると考えるのは、ほとんど虚しい期待というべきである。『民営化』論者からすれば、これこそ羊頭狗肉の典型であろう。
- 最もダメージを受けたのは真摯な『民営化』論者であった。実際、この程度の改革であればさしたる政治的抵抗なしに実現できたはずであり、政治的な仮想敵を作ったりして大騒ぎをする必要はなかったに違いにない。要するに、この政治的空騒ぎに目をくらまされたのであった。
- 「道路公団民営化の内幕」PHP新書 屋山太郎氏
- 道路族は満面に笑みを浮かべ、改革派は怒りをあらわにして席を蹴った。しかしこれですべてが終わったわけではない。国民の期待を集めて始まった道路公団改革がかくも惨めな失敗に終わったあとには、大きな波乱の芽が残された。自民党では大きな改革はできないと国民が実感したことだ。
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道路公団が民営化されてから10年が経過した現在、次のポイントで民営化を評価したい。
料金は安くなったのか?あるいは安くなるのか?
いつ無料になるのか?
無駄な道路建設は止まるのか?
これらは、誰もが興味のあるポイントであり、理解も容易だ。ただし、料金が安くなったかどうかは、ETC割引きによって、その評価がしづらくなっている。多くの人が「安くなった」と勘違いしているのだ。しかしながら、ETC割引については、欺瞞としか言いようのない会計処理が存在する。このことは追って詳しく解説したい。
とにかく本サイトにおいては、高速道路の健全なあり方を利用者視点から指摘していくつもりだ。