どんぶり勘定とは、味噌もクソの一緒にひとつのどんぶりのなかに入れて勘定することだ。高速道路の料金プール制とは、償還が終わってなおドル箱の道路と、返済の目処が立たない赤字道路をまとめて勘定することであり、まさしくどんぶり勘定である。
公団時代のどんぶり勘定
それまでの個別採算制から全国の高速道路を1本の道路とみなして債務を償還(返済)することが1972(S47)年に決められた。これが道路公団の時代の全国プール制である。
全国プールというどんぶりに入れることによって、黒字路線の利益を、赤字路線の穴埋めが可能になる。そうして、赤字路線が延々と造られてきたのである。一定の赤字路線が組み込まれると返済は先送りされてきた。こうして「債務返済が終われば無料開放」という大前提が骨抜きとされたのである。
たちが悪いのは、「債務返済が終われば無料開放」という建前が、高い料金を我慢させる甘言となっていることだ。実際には、返済計画の先送りによって、高い料金を恒久的に払わせられている。
↑高速道路の無料化は延長され続けた。
のちに、個別採算制にあった一般有料道路に対しても、同様のプール制が導入された。それが横浜プールと千葉プールである。このふたつのプール(=どんぶり)によって、第三京浜・横浜新道や京葉道路といった高収益の古い道路を、いつまでも無料化させずに済ませてきたのである。
現在のどんぶり勘定
民営化後の勘定は、道路公団時代よりもっといい加減だ。
以前は、高速道路はひとつの勘定、一般有料道路は一部の例外を除き個別勘定とされていた。それが、保有機構と道路会社に上下分割が採用されたことによって、全部まとめてひとつの勘定で返済されることになっている。
正確には、機構が保有する道路を、各道路会社が借受け、貸付料を機構に支払う。貸付料はそれぞれの道路会社が借り受ける道路資産に対し、債務が一定期間内に返済できるよう計算され、「協定」が締結される。
「協定」は、全国路線網、地域路線網、一の路線の3つに分類され、それぞれの作成される。地域路線網には首都高速と阪神高速が、一の路線は極一部の特殊な有料道路が分類されている。
問題なのは全国路線網の分類方法である。全国路線網の中には、高速自動車国道(いわゆる高速道路)と一般有料道路が一緒くたにされているのである。これによって、ドル箱の第三京浜・京葉道路、大赤字のアクアライン、そして北海道の「人より熊のほうが多い」場所に造られた高速道路がひとつのどんぶり(全国路線網どんぶりNEXCO東日本用)で勘定されることになっているのである。
なお、高速道路株式会社法においては 「全国道路網」の全ての路線が「高速道路」と総称された。法律で「高速道路」が定義されたのはこれがはじめてである。
どんぶり勘定で事業がうまくいくはずがない
道路計画への影響はさておき、民営化によって期待されているのは、経営努力が行われるようになり、その結果、債務が順調に返済されつことである。しかしながら、債務を完済することは、道路会社にとって自分たちの存在が消滅することを意味する。誰が自分の居場所を失うために努力をするだろうか。
このように、民営化によってできた会社には、自ら経営努力をするモチベーションが働かない。こんなことは、当初からわかりきっていたのに誰にも止められなかった。
うまくいくはずのない制度設計を形にした現在のシステムは、すみやかに再改革されるべきである。